2009年

6月

25日

思うだけじゃダメだけど

スポーツ新聞(すっかり買わなくなりましたが)でよく用いられる語に「おじさん世代」というものがあります。最近だと「ハマのおじさん」、工藤公康選手を取り上げる文脈で頻繁に用いられる、いわば思考停止の一語。年齢について語るだけで、新聞サイドが記事をまとめた気になってしまう悪魔のフレーズです。
日頃からそんな意識をもっているので、スポーツ選手を世代で括ることは好きではないのですが、先日同い年の選手の健闘に強く心を打たれました。
今更ながら、Wimbledonでのクルム伊達公子選手!!
スーパーな一回戦敗退でした。

No.9シードのウォズニアッキと対戦した彼女は、「あっさり負けちゃうだろうな」という野次馬の勝手な予想をあざ笑うかのように、立ち上がりから18歳 の格上選手を圧倒します。地面に吸い付くような弾道のライジングとスライスを織り交ぜて相手を翻弄する様は、まさに全盛期の伊達公子そのもの。10年を越 えるブランクなんかどうでもいい。個性を武器に戦った若かりし日と同じ姿が、芝生のコートで躍動していました。
セカンドセットの序盤までは順調でした。先に相手のサービスゲームをブレイクして、まさかの初戦突破かと期待されたのですが…。徐々に、届いていたはずの ボールに追いつかなくなってきます。「あまりの暑さに疲れたのかな?」と思っていましたが、事態はもっと深刻だったようで、彼女の動きはみるみる鈍ってい きます。

どうやら足がけいれんして、思うように体が動かない様子です。あっさり逆転されてセカンドセットを落とすと、ファイナルセットは序盤から若いウォズニアッ キの一方的なペースです。フットワーク軽くボールに追いつき、膝を極限まで柔らかく使って攻撃する「ダテック」のテニスは、もうコートの上にはありませ ん。

「よくやったよ。もう棄権すれば良いのに」
多分、日本だけでなく、世界中のテニスファンがそう思ったはずです。でも、彼女は戦いをやめません。明らかに棒立ちになって打点が高くなっているのに、足が動かなくてボールに追いついていないのに、彼女は芝生の上を走り続けます。
主催者推薦で出場した責任感があったのかもしれませんし、単にやめるほど足は悪くないと判断していたのかもしれません。でもテレビで観戦している私には、体力の減衰に屈してコートを去ることを避けたい、最後までテニスで勝負したいという彼女の意地が見えました。
当日、テレビで解説していた神尾米さんによれば、クルム伊達選手は日々のトレーニングで相当、自分を追い込んで鍛えてるとのこと。プロの大会に出る以上、 年齢は関係なく、技術・体力・精神力・運、そうした総合的なアスリートの能力で相手と勝負したいのでしょう。「よくやったよ。もう棄権すれば良いのに」な んていうのは、彼女にとっては侮辱的ななぐさめに聞こえるかもしれません。

テニスの世界に比べればずっと平均年齢の高いビジネスの世界に暮らしている僕は、もはや「若手」と呼ばれる年ではありません。かといってベテランの迫力も 経験も持ち合わせておらず、日々、不安と焦燥と諦観に巻き取られるようにして、精神はけいれん寸前の状態で暮らしています。
でも年齢なんて、どうでも良い情報に過ぎない。与えられた環境、つかみ取った環境でできることをやり切るだけなんだ。そんなことを、同い年の彼女から感じ とりました。クルム伊達公子選手が、痛みに顔をゆがめながら最後までボールを追ったように、僕もネガティブな気持ちに屈せずに走りきらなければいけませ ん。