持たざるものの嘆き

故郷は<生誕の事実×暮らした時間>で考えるものだとします。「生まれも育ちも」ってやつが成立して初めて、そこを故郷と呼ぶという考え方です。
そうすると、生まれと育ちがバラバラ、それどころから育った街が一カ所ではない僕には、故郷がないことになってしまいます。

「出身はどちらですか」と尋ねられると、いつも答えに窮しています。なぜなら故郷がないから。
「生まれは千葉県だけど、すぐに東京に引っ越して、その後は名古屋、名古屋といっても実はその隣の春日井という街で、その後には仙台で浪人時代までを過ごしました。大学入学と同時に東京に出てきて・・・」。

もちろん、誰もこんな長ったらしい答えは期待していませんし、僕自身もこんなバカげた回答をすることはありません。
ただし、故郷がないということで、人として何か大切なものを持てていないのではないかという不安が心をよぎります。

故郷を持つ人が素直にうらやましく感じます。僕は死ぬまでに、どの街でどんな風に自己を表現していくのか。いっそ、外国に出て日本を故郷とすれば、この喪失感は埋められるのでしょうか。