トーマス・ブルスィヒ著
粂川麻里生訳
三修社
レフェリーのモノローグで構成される小説で、
スタジアムやテレビの前にいる我々が考えたこともない視点で
サッカーが、選手が、社会が描かれていく。
けれど、訳者あとがきに著者の言葉として引用されているように
「サッカーは表現のための小道具」でしかない。
主人公の視点の向こうには、現代社会に暮らす我々が映っている。
騙す者、委ねる者、線を引く者・・・・
自由を満喫しているようでありながら、大きな何者かに生活や人生を委ね
手足を縛られている現代人が終盤になればなるほど浮き彫りになってくる。
物語の舞台になっているのはドイツ。
でもドイツに限った話でもなく、ヨーロッパやアメリカに限った話でもなく、
日本に暮らす我々に
「サッカー審判員フェルティヒ氏の嘆き」は切々と訴えかけてくる。
レフェリーが主人公というだけでサッカーファンには非常に興味深いけれど、
それだけにはとどまらず、社会への接し方について
イヤでも考えさせられてしまうような素晴らしい作品だった。も
ちろん、これから試合のたびに
レフェリーを見る目が少し変わってしまいそうではあるけれど。
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